エピソード:おもいでケータイ再起動
再起動したおもいでエピソード
episode 72
「ルパン三世」の銃声
高校1年生の時に初めて手にしたケータイなど、計5台を持ってきてくれた岸本さん。
いちばん再起動させたかったのは、いちばん右のシルバーのケータイ。「子どもの頃、父の機種変後にいらなくなったケータイおもちゃとして譲り受けたものです。これに最初から入っていた『ルパン三世』の着メロが大好きで。だって……銃声までちゃんと入ってるんですよ!」それが大好きで大好きで、時々その着メロを聞くためだけに充電していたそう。それがとうとう電源が入らなくなってイベントに持ってきてくれました。
そして再起動を試みると……無事に電源が入りました!
「おおおおおおー」と、ケータイに見入る岸本さん。たとえば……。
「父の日かなにかの時に、姉妹で焼いた父の顔型のパンだと思います(笑)」
こちらのケーキは……、
「おばあちゃんの誕生日に作ったんだと思います。なんで全部の面に生クリームを絞り出しているのかは謎(笑)」
これは?
「わー、めちゃくちゃヤバいですね(笑)。たしか看護専門学校時代の課題だったと思います。“自由に表現せよ”みたいなテーマで、洋服とか雑誌の切り抜きを人型に並べたんです。『爆発まで10秒前』ってタイトルつけたんですが、自分でもワケわからないです」と、復活した写真たちの醸し出す青春時代のサブカル感に思わず頭を抱える岸本さん。
で、お目当ての着メロはというと……、
ありました!もちろん銃声入り。再生しては、息を潜めてメロディーに聴き入り「バキューン!」が鳴るたび、現場スタッフ大興奮。
「ね!いいでしょ!」と岸本さんも笑顔に。
このケータイには岸本さん自ら打ち込んだ「カエルの歌」と中学校の校歌の着メロという、本人も忘れていた“おまけ”とも再会できました。
episode 71
カメラを向けると顔を背ける父
順子さんが来られたのは「定年退職の日の父の写真を見たかったから」。
順子さんのお父さんは、2019年に76歳で亡くなりました。とてもシャイで写真嫌いだったので、カメラを向けるとすぐに顔を背けてしまうのだそう。「だから、父の写真に関しては、基本全部隠し撮りだったんです(笑)。でも、定年退職した日だけは珍しくカメラ目線の写真が撮れたんです」
ケータイの写真をバックアップしていたパソコンが故障してしまったので、電源が入らなくなった古いケータイを頼りにするしかなかったのです。
そして、再起動成功。
9年ほど前に定年退職の日を迎えたお父さんの写真が無事よみがえりました。
「ああ、これです!普段はトラックを運転していたこともあってスーツを着ることがなかったんですが、定年の日だけはスーツで会社に行って、記念品などいろいろもらって帰ってきました」
人生における記念日でちょっとした非日常だったからか、お父さんもきちんと写真に写ってくれました。
ずっと見たかった写真を見つけた順子さんでしたが、意外にもプリントアウトしたのは別の写真。
それは……
「お酒を飲みながらテレビを見ている時に、カメラを向けて『こっち向いて!』って言ってもそっぽ向いてる。部屋着で母が編んだセーターをいつも着ていたんです。……これがいつもの父です!」
順子さんが最終的に選んだのは、もっともお父さんらしい1枚だったのでした。