順子さんが来られたのは「定年退職の日の父の写真を見たかったから」。
順子さんのお父さんは、2019年に76歳で亡くなりました。とてもシャイで写真嫌いだったので、カメラを向けるとすぐに顔を背けてしまうのだそう。「だから、父の写真に関しては、基本全部隠し撮りだったんです(笑)。でも、定年退職した日だけは珍しくカメラ目線の写真が撮れたんです」
ケータイの写真をバックアップしていたパソコンが故障してしまったので、電源が入らなくなった古いケータイを頼りにするしかなかったのです。
そして、再起動成功。
9年ほど前に定年退職の日を迎えたお父さんの写真が無事よみがえりました。
「ああ、これです!普段はトラックを運転していたこともあってスーツを着ることがなかったんですが、定年の日だけはスーツで会社に行って、記念品などいろいろもらって帰ってきました」
人生における記念日でちょっとした非日常だったからか、お父さんもきちんと写真に写ってくれました。
ずっと見たかった写真を見つけた順子さんでしたが、意外にもプリントアウトしたのは別の写真。
それは……
「お酒を飲みながらテレビを見ている時に、カメラを向けて『こっち向いて!』って言ってもそっぽ向いてる。部屋着で母が編んだセーターをいつも着ていたんです。……これがいつもの父です!」
順子さんが最終的に選んだのは、もっともお父さんらしい1枚だったのでした。